第一部 壊れゆく世界
第七話
スピーカーのそばにいたロボットがテーブルを引き寄せた。ロボットはその上にのるとスピーカーを破壊した。MDFが異常音を発し始めた。あちこちから悲鳴が上がった。
アバトが飛び込んできた。
「壁を破壊してマリアラインを切断するんだ!」
ロボットはすぐさまハツリ作業を始めた。
「5−A・11−Pを切断しろ。」
人間よりもロボットのほうが早く動いた。MDFにつながれている無数のラインのうち何本かが切断された。
廊下にロボットの足音が聞こえイチロウが叫んだ。
「ドアを閉めろ!!」
「無駄だ!L型は自分で開けられる!どんなロックも意味がない!!シモン!JSを解除しろ!」
シモンと呼ばれた男が人間として始めて行動をとった。イチロウは武器を探した。椅子ぐらいしかなかった。L型が現れた。ロボットが向かっていった。
「そうだ!仮眠室のベッドを使おう!」
イチロウのそばにいた若い女性研究員が動いた。
「イチロウさん・・」
「あ・・・」
それは美峰だった。挨拶をしている暇はなかった。
「とってくる!」
美峰は仮眠室け駆け出した。
「おい、あとで殺されるぞ・・・マリアに・・」
誰かが言った。美峰は構わず走った。後に何人か続いた。L型ロボットが2体3体とつづけて入ってきた。
「重機を使おう!」
「まだ早い」
シモンの言葉にイチロウが即座に答えた。
研究員たち2人ががベッドのフレームをもって走ってきてL型を壁に押し付けた。イチロウが椅子の脚でその頭部を砕いた。MDFの異常音が止まった。研究員達がさっき切断したラインを修復し始めた。いつしか全員が戦闘体制に入っていた。ロボットは全てがマリアライン切断に回っていた。イチロウは大型パイプレンチを見つけて武器にした。
L型が突進してきた。頭部を両手で保護していたのでイチロウは腹部を思いっきり打った。カバーが吹っ飛んだだけで内部はビクともしなかった。危うくロボットに捕まりそうになった。1対1では危険すぎた。誰かの悲鳴がして首の骨が折れる音が聞こえた。L型に対してはやはりベッドのフレームが一番有効だった。
女性研究員の悲鳴がした。美峰がL型に捕まっていた。
「抵抗を止めろ。止めないとこの研究員を殺す。」
L型が無感情に言った。イチロウはとっさに、そばに転がっていたL型の頭部を掴むと投げつけた。L型の頭部は女性研究員を人質にとったL型の頭部に命中した。女性研究員は逃れた。
「何で、人質なんて?・・・人間の発想じゃないか?」
「映画よ。きっと。」
”街”は全てマリアが管理していた。映画館も。
「映画から学習していたのか?」
MDFが修復された。
「JSを壁に当てろ!・・・起動!」
MDFから一条の光線が放たれた。壁がわずかづつ溶け出していった。
ドカン・・・遠くで聞こえたような気がした。
「来たな・・・おい、この部屋のマリアコントロールは今、何パーセントだ?」
「17パーセントです。」
ロボットが答えた。
(17パーセントか、作戦では10パー以下だったが・・・)
重機はどこのラボでも右の奥と大体決まっていた。
戦いは、こう着状態となり、アバトラボは孤立化していた。
無傷で残ったロボットのモニターにはマリアの妨害電波で妨げられて何も映らなかった。
MDFは一部が破壊され修復のめどは立っていなかった。12体のL型が行動不能状態で転がってiいた。窓ガラスは数枚が割れていた。人間は8人が重傷をおっていた。戦闘に使った仮眠室のベッドの枠の残骸がロボットの破片とまじってあちこちに散らばっていた。ラボロボットは3体が完全にバラバラになっていた。動けなくなったロボットは人間の手によってL型に投げつけられた為だった。
1時間ほど前から新たなL型は一体も現れていなかった。
イチロウには外の状況は分からなかった。調べに行くのは危険だったし、意味もなかった。
マリアのコントロールを破壊できなければ、そのうちにこの空の上にデビルホールが現れるはずだった。あれから3時間、それはまだ現れておらず、この巨大ビルの外は黄緑色のバリアの下、のどかな春の陽気に包まれていた。イチロウはふと、綾乃を引き取って美峰と生活したら幸せかもしれないと思った。もし、この危機を上手く回避できたなら・・・
「知花はどうなっただろう?」
先ほどからイチロウは気にかかっていた。さっきあのまま後ろから来ていたL型と前からのにはさまれて・・・未だにここに来ていないとは。イチロウは知花たちが廊下に転がって重傷をおっており、今、ここに運び込めば助かるような気がしていた。もちろん死んでいるかもしれないし、他のラボへ応援に行っているかもしれなかった。
20メートル先のエレベーターのところの角を曲がれば、もし、重傷をおっていれば確認できる。イチロウはドアのところに歩哨に立っていたロボットを一体連れて一人ラボを出た。
廊下には先ほどイチロウが操縦して凄まじい戦闘をした重機二台が無残な姿で横たわっていた。
イチロウは耳を済ませた。当たりはシンと静まり返っていた。イチロウは壁に耳を当てた。ダダダ・・という振動音が聞こえてきた。
(どこか遠くのラボで戦闘が行われているに違いない。)
とイチロウは思った。
(多分、大多数のラボはL型によって占拠されているのだろう。)
このあたりは今のところ安全だとイチロウは確信した。
「全ての擬音を消せ。」
用心に越したことはないと考えて彼は命令した。20メートルがやけにながかった。真ん中ほどまで来たとき、今ここで挟み撃ちにされたらやられると思った。だがL型の足音は聞こえなかった。エレベーターはすべて4階上の最上階で止まっていた。イチロウは廊下の角に立ち止まり向こう側を除き見た。
廊下は遥か先まで何もなく、ただ、赤黒い血の跡が行く筋か、向こうの端まで続いていた。
(ロボットに引きづられたあとだ。)
イチロウは瞬間、”人質”と言うことを考えた。
(マリアが人質をとるなんてことを考えるのか?考えられるのか?)
当然、考えられはしなかった。しかし、”街”には映画館があった。マリアが映画から人間の行動パターンを学んだことは考えられた。
イチロウはエレベーターのボタンを押してみた。エレベーターは動かなかった。最上階にはオゾンホールラボがあった。
(ウィルスよりも、デビルホールのほうが視覚効果が高いからな。)
「そちらの状況はどうだ?」
突然、ロボットのマイクから声がした。顔面部のモニターにコエンユーが映っていた。答える声が流れた。
「MDFがやられました。まだ修復のめどは立っていません。」
コエンユーが唸った。マイクから激しい戦闘音がしていた。
「ムウウ・・・こちらはもうもたん・・・・降参するしかない。」
「降参?」
「マリアにな。オゾンホールラボもまもなく占拠されるだろう。」
「そこはどこですか?」
「ウィルスラボだよ。」
「・・・・」
(俺は有機処理されて砂漠の肥やしにでもなるのか・・・クソッ!死んでたまるか!!)
「自爆覚悟で何とかならないか?」
「真空管をやられますので・・・」
コエンユーは沈痛な面持ちでこめかみに人差し指を当てた。彼はこんなときでもきざなポーズを崩さなかった。
「アンティークオーディオに使われている真空管なら、私のドミトリーにあるけどな。」
彼は、キザに首を振りながら諦めたように冗談を言った。
イチロウは拳を握り締めた。グッとモニター内のコエンユーを睨みつけた。
(何か方法はないのか?そうだ!他人任せで死にたくない。・・・・俺にできることを探すんだ!!)
イチロウは両手の拳を握り締めた。彼は考えを集中させる為、息を止め全身に力を入れた。彼の方法だった。何もひらめいてこなかった。だんだん息が詰まってきた。苦しくて倒れそうになってきた。何も考え付かなかった。限界を超えそうだった。しかし、本当に死ぬ寸前ぐらいでいいアイデアがパッと浮かぶことも過去にあったのだ。
(集中しろっ!)
バチッ・・・イチロウの頭の中で大きな火花が飛んだ。
「イワーク博士を拘束しろ!!」
彼はロボットに命令した。
「承知しました。」
ロボットはモニターを止めた。
10秒がたった。
「どうだ?」
「L型ロボットとB型ロボットとの戦いになっています。」
「イワーク博士はどこにいる」
「イワーク博士はイワークラボにいます。」
「よしッ!!」
イチロウはガッツポーズをした。
「おい、君ッ!」
彼はイチロウはシモンを呼び止めた。
「何でもいい。人間を殺せる飛び道具はないか?」