第一部 壊れゆく世界
第五話
D−103では、イワークを無視して会議がつづけれれていた。
「もし、マリアが人類の快楽とか幸せとかいった概念を理解し始めているのだとしたら、我々が一番危惧すべきなのは・・・マリア手動による人口の減少化だ。」
今の地球の状態を考えるとそれが人類の今後にとって必要なのは誰の眼にも明らかだった。
食料・・・地上のかつての農地の大半は砂漠と貸していた。
海は魚を獲りつくし、その数は21世紀初頭と比べて10万分の一にまで減り生態系は破壊され非弱で汚染されていた。
エネルギー・・・石油・天然ガスはほとんどなくなり、ウランもプルトニウムももはや風前の灯だった。人類は最近ようやく実用化した核燃料リサイクル型発電所で、ようやく生きながらえている体だったがも、事故が絶えずおこっていた。
マリアは今まで学習したデータから、これらの解決の必要性を発見し、その実行に走るのではないか?
やがて、科学者達も重い口をあけた。
「私のところにはオゾン層破壊砲がある。」
「うちのラボには放射線流砂が・・・」
「バイオラボには・・・まさに・・・100万単位 1000万単位 1億単位と死者数を予測して感染沈滅するウィルスがある・・・・」
イチロウはコエンユーのラボを訪れていた。
「博士は会議中です。」
つれない返事にイチロウはカチンときたが気を取り直して
「キド博士の件で調査に来ました。」
と言った。
そこは、ラボと言うより、巨大な工場だった。イチロウは自分が今から聴きたい部分を、ここの誰に聞いたらよいのかさえ分からなかった。
「量子変換技術について少し詳しいことを訊きたいのだが・・・」
以外にも、目の前に最初に現れたこの男はチーフクラスの一人で、イチロウの質問には答えられそうだった。
「つまり・・量子変換技術を使って・・・つまり、マリアが実体化した技術を使って・・・・その密室の中にフッと何かを・・・ロボットとかをフッと現れるようなことが可能かどうかと?」
「そうです。」
「無理ですね、普通には。量子変換実体化にはコアが必要ですから。恐らくマリア場合、そう、ベースボールの球くらいのコアが入っているでしょう。」
「知花、それらしきものは?」
「発見されていません。」
「何かに偽装されているかもしれない。」
「洗いなおしたほうがいいかもしれませんね。」
イチロウの要はそれだけだった。
しかし、彼はついでにもう一つの樹にかかる点の確認してしまいたかった。
「今回マリアが止まったのと、そのあと実体化したことにはなんらかの関係があると思いますか?」
イチロウの声は低かった。
それは、今、研究所内で囁かれている質問だった。
「マリアは本来自分で研究開発は行わない・・・とされていたわけですが・・・」
チーフ科学者は答えなかった。彼の衣服には繊維マイクが組み込まれているし、それは非常に感度がいいし、カメラはあちこちにあり、マリアは唇を読むことも可能だった。
チーフの目がちらりとカメラを気にした。
イチロウは
(科学者達は、マリアが故障したと思っている!)
と確信した。
イチロウは携帯を使ってキドラボの遺留品を洗いなおしたが、コアらしきものは見つからなかった。
「まぁ、一回足を運んで目で確かめてみるか。」
現場は保存してあった。
文鎮から花瓶から、何から何まで、コアになりそうなものをイチロウと知花はサーモ音波モニターで調べた。コアはなかった。
「振り出しに戻ったか・・・」
イチロウと知花は突っ立って部屋を見回してみた。
ボンドでしっかりとみっぺされた部屋・・・一酸化中毒自殺を図っておきながら、突然首吊り自殺・・・しかも、ロープはあらかじめ用意されていた。
イチロウはひらめいた。
「この、ボンドによる密閉はなにかのカモフラージュじゃないか?」
「と言いますと?」
「ボンドで、密閉されていなかったとしたら、簡単にバレてしまう何かをごまかす為のトリックでは・・?」
その時、知花の携帯がなった。
「A3だって!!?」
形態表示を見て知花が唸った。
イチロウの携帯が鳴っていないのに知花のだけA3は異常だった。
「とにかく、行ってきます。」
Aは非常事態召集で3は警察署会議室を表していた。
イチロウはひとり、立ちつくした。
(何かが起きてしまっているんだ・・・)
その時、異様なざわめきのようなものがラボで起こり、仮眠室にいるイチロウの所へ、それが波のように押し寄せてきた。それはざわめきであり、歓声であり、簡単でありそして挨拶でもあった。
それはイチロウのところへやってきた。それは、仮眠室のドアの前で泊まった。そして、ざわめきは急に静まった。
一人の強烈なカリスマがそこにいることは明らかだった。
それは、部屋に入ってきた。
美波だった。
「すぐに調査を中止しなさい!」
と彼女は言った。イチロウの頭の中で激しくスパークがとんだ。
(こいつはマリアだ!!)
イチロウの表情を見て彼女は急に笑うとその、服も顔も髪も目の色もスー・・・別なものに変化した。どことなくエキゾチックな雰囲気の漂う白いスーツ、黒い髪、翡翠色の目。
マリアは言った。
「イチロウさん、キド博士は自殺したのよ。」
「違う。」
「どうして?」
「何もかもが不自然すぎる。」
「でも、この部屋は密室よ。」
「密室じゃない!」
イチロウはマリアを睨みつけた。どうしてそうしたのかは自分でも分からなかった。直感とか感性がそうさせた。
マリア、の目の表情が一瞬固まった。
「どうしてそうなの?」
「勘だ。」
マリアは笑い出した。
「推理すれば、必ず分かる。」
マリアの笑いが止まった。
「オレだってバカじゃない。将棋はAクラスより強かった。」
マリアの様子が変だった。マリアは不意に硬直した。
イチロウは固唾を呑んだ。
(爆発?そんな予感が頭をよぎった。)
イチロウが
「あっ!!」
と叫んだとき、マリアは既に消滅していた。
ゴンッ!
・・・と、楕円形のコアが床に落ちた。
通称”スリー”と呼ばれるD−103会議室にイチロウは他の警察の面々たちと共に座っていた。
中央にコエンユーの姿があった。コエンユウはどうどうと禁止されているタバコを吹かしていた。
彼がタバコを吸う様はいかにも気取り屋だった。それがしかし、なんともイチロウには親近感を感じた。何しろ彼の顔は狸のようで、ぜんぜん様になってないのだ。にもかかわらず、彼は、自分がこの世で最高にハンサムガイだと思い込んでいるようだった。
「あれがコエンユー博士です。」
さっき、知花から説明を受けていた。
全員が集まったのを見て、コエンユーは口を開いた。
「では、これから作戦を説明する。」
と言いつつもコエンユーは、事件の概要、重大性から話を始めた。
コエンユーは実体化語のマリアの最近の行動の不審をいくつか揚げ、マリアが、実体化技術によって何らかのプログラムトラブルをおこしている可能性を示唆した。
そして、自分の技術を使って、実体化したマリアを消滅させたとも。しかし、マリアが、故障しているとすると実体マリアを消滅させただけで自己修復するとは考えにくい。
肝心のイワーク博士は口を閉ざしてしまっている。恐らくマリアにプログラムミスがあったのがショックなのだったのだろう・・・何しろAI開発だけが彼の誇りだったのだから・・・
オゾンホール砲の話が出たとき、イチロウは思わず窓の外の”街”に目をやった。オゾンホール砲の詳しい技術をイチロウは知らなかった。それは一種の音波によって、意図的にオゾンホールを作り出し、音波レンズによって太陽光に含まれる有害光線を地上に降り注がせるのもだった。
既に、イスラエル戦争でしようされ、その遅効性の殺人光線の恐ろしさは世界中の人々が知っていた。オゾンホール砲によってできる音波レンズは地上からは”黒い穴”の用に見えイスラエルの人々はそれをデビルホールと呼んでいた。
「オゾンホール砲による攻撃はバリアでは防げません。」
コエンユウが言った。
オゾンホール砲によって照射される殺人光線を美峰と綾乃が浴びる瞬間を想像しかけてイチロウは目の前が真っ暗になりかけた。彼はあわてて、意識を会議に集中させた。
「マリアが自分の計算に従って人類半減化行動を起こし始めるとすると、先ず第一に、この研究所を制圧する必要があります。その場合間マリアはオゾンホール砲を使うと示唆して”街”を人質にとるでしょう。」
この研究所の最上階に立ち並ぶラボ群には、オゾンホールを研究しているラボもあることはイチロウでも承知していた。
「マリアがこのような計算をしていると言う証拠は何一つありません。全ては我々の杞憂かもしれません。マリアは正常に機能しているのかもしれません。しかし、ことのリスクがあまりにも巨大なので我々はこの作戦で、マリアを停止させるのが現在考えられる最も適切な処理だと考えるのです。」
作戦は単純だった。
基本的にはロボット達にマリア回線を記憶させ、片っ端から回線を切断してしまうのだ。同時に第8アンテナを破壊する。第8アンテナはL型ロボットと通信しているからだ。L型は直接マリアによってコントロールが可能だが、アンテナを破壊すれば、ロボットは独立する。
本来ならばロボット達をオゾンホールラボや、バイオラボ、放射線ラボなどの兵器ラボにあらかじめ集結させていきたいのだが、マリアに察知される危険性があるので、それは行わない。
マリアAI手動停止機能も使用しない。既にマリアによって何らかの対策が講じられている可能性が高い・・・
続いて、作戦の細かい部分が検討修正された。