鎧武者
平安時代の東北地方。
最近いつも困った顔をして悩んでいる様子の殿。(殿の設定は奥州藤原三代の一代目当たりが良い。つまり、この物語はファンタジーなので、あまり一般に知られていない人物、時代のほうが良い。)
家老が、「悩み事は、一体なんでございましょうか?」と尋ねるが、「人に言えぬ。」と言う返事が返ってくるばかり。家老は二人いて、一人は老家老、もう一人は若家老。老家老は悪い奴で、若家老は良い奴。
殿は夜、寝ていてもうなされる。
と、ある日、枕元に魔人が現れる。鎧武者の格好をしている。驚く殿。魔人は、自分は殿の先祖だと言う。「お前の悩み事はなんだ?」と尋ねてくる。殿、先祖だと言うので安心して「・・・実は、娘が自分を愛してしまっている・・・」と告白する。
魔人「それじゃ、近親相姦じゃないかっ?そりゃまずいっ!!」
と言うと殿はいきさつを説明する。
この地方が戦国状態だった頃。殿はまだ若く(と言っても四十くらいだが)、まだ足軽だった。ある戦である武将を追い詰めた。その男は戦の無いときは百姓で田舎に妻と娘がいた。若き日の殿は一人でその武将を追い詰めた。
武将「ワシらの軍はいい加減で、死亡報告も無い。ワシが死んだことも知らずに女房と娘がずーっとワシの帰りを待ち続けたらかわいそうだ。戦が済んだら、ワシが死んだことを女房と娘に知らせて欲しい・・・」
若き日の殿は約束し、武将の首をはねる。
で、殿が後日、武将の田舎を訪ねてみると、女房のほうが今、死んだところだった。餓死だった。周りの百姓も皆、極めて貧しく、娘も死を待つばかりだった。娘(後の月姫)は、四歳で可愛い盛り。
「もう直ぐパパが帰ってくるもんね。おじさん、パパの友達でしょ?」
「お前のパパは・・・お前のパパは、オレが・・・(うう、むむっう・・いっ・・言えんっ!・・そうだ!) 今日からオレがお前のパパだ!お前のパパは遠くへ行くことになったので、俺が代役を頼まれたんだ。
(まだ)若き日の殿は妻に先立たれ、子どももいなくて寂しかったので、この娘を引き取って育てることにした。
魔人「一応、安心した。・・・そういうことなら、一旦、親子の縁を切り、しかる後に、あらためて嫁にすればよかろう。」
殿「しかし、ワシは既に五十八。娘は十六。・・・いくらなんでも。・・・ああ、しかし、娘は自分を愛してしまっているので、ムリに嫁がせても、悪いことが起こりそうな気がする。」
魔人「そうか・・・うむ。では、いい人を紹介しよう!」
魔人が何事か唱えると、魔女が現れる。魔人は魔女に、娘をムリに嫁がせると、どういう結果になるか占わせる。
魔女「うわっ、最悪!・・・また、娘にワザと嫌われようとしても最悪。娘をよその国へ嫁にやるともっと最悪。婿をとったら更に最悪!!」
とか言う。占いは間違いないという。
殿「なんとかしれくれっ!」
と魔人にしがみつく。魔人が、困って魔女を見ると、魔女は、すうーっ・・・と消えて逃げてしまう。魔人もなんだかんだ言って逃げてしまう。
殿「これまで、幸せに暮らしてきたが、もう終わり。・・・私は死なねばならない。」
でも、死ねない。そこで、殿は起きてもいない戦をでっち上げて、そのまま戦死したことにしてしまおうとする。そして、どこかで暮らそうと。そんな、殿の本心を知って同情する若家老。同じくそれを死ってしめしめと思う老家老。
「オレが姫を口説いて嫁にしてこの国をのっとってやろう。」
老家老は七十過ぎたジジイのくせに、自分は性的魅力にあふれていて女にモテまくると勘違いしている。おまけに自分は天才で、国を取り仕切る資質も十二分に備えていると思い込んでいる。
どこかの山の峠。で
「それでは、ワシは、これで去る。」
と向こう側へ一人降りていく殿。向こうの里に小さい家と家来の二、三人もいるのであろう。ここまで送ってきた者達は、ここで城のほうへ引き返す。が、老家老だけは、そっと殿のあとをつける。そして殿を崖から突き落として殺してしまう。
「お前が生きていると、いつ何時かえってきてワシの地位が危うくなるかしれんでなぁっ!! ははは・・・!!」
一方、お城では月姫が殿の帰りを心配しながら待っている。
やがて、家来一行が帰ってくる。殿がなくなったと知らされショックで倒れる月姫。
若家老は姫を一生懸命に励ます。月姫は悲しみのため死んでしまいそう。若家老は殿が遠くの里で静かに暮らしていると思っているので、それを言ってしまおうかどうしようか迷う。
一人、悲しみにくれている月姫。そこへ殿の幽霊が現れる。心配そうに月姫を見ているが、声をかけても姫には聞こえない。ふと見ると、向こうで若家老が居眠りをしている。殿は若家老の体に乗り移る。若家老になった殿、姫を慰める。姫、少し元気になる。
姫「なぜだか、若家老が前よりも素敵な男に思われてきました。」
姫は若家老に心を惹かれている様子。若家老の殿、焦る。
「(まずいぞ、これは!)」
老家老のほうはというと、早く姫をモノにしてしまおうとチャンスをうかがっている。
彼は自信過剰男なので、口説けば直ぐにでもモノになると信じている。が、実際、口説きに掛かると、全く相手にされない。姫は若家老のほうに興味津々なようだ。ひょうんなことから、老家老は若家老に殿の霊が乗り移っていると知る。それに気がつく若家老の殿。殿は自分を突き落としたのが老家老とは知らず、全てを打ち明けて相談する。
老家老「殿!ご安心ください。私が、(本物の)若家老と姫が結ばれるように致します。安心して成仏してください。」
と、若家老の殿を騙す。
ところが、姫がそれを聞いてしまう。
姫「やはり、父上だったのですね。私、父上とずっと一緒に暮らしたいっ!」
と、若家老の殿に駆け寄る。
殿の回想。
幼い娘(月姫)を家に連れ帰る道中。まだ、若き日の殿に肩車されて、はしゃいでいる娘。
まだ、若き日の殿「お前、家を出て知らないとここへ行くっていうのに悲しくないのか?」
娘「まるで、お嫁さんにいくみたーいっ!!」
上から、まだ若き日の殿の顔を覗き、目が合うと
「キャッ!!」
と言って、顔を手で覆う。
悩む、若家老の殿、夜も眠れず、うなされる。と、枕元に例の鎧武者が現れる。
「ときどき若家老の体から抜け出せば良いではないか。姫はお前なのか若家老なのか区別がつかなくなって、だんだん本物の若家老に惹かれだすに違いない。」
と、名案を授ける。
翌日。若家老の体から抜け出る殿。そうとは知らず、若家老に寄り添う月姫。若家老はワケが分からず、しかし、赤くなって内心は大喜び。それで、姫は若家老だと気がつく。若家老が自分を好きだったんだと知って複雑な心境。その様子を見てやきもちを焼く殿の霊。強引に若家老の体に乗り移る。が、すでに姫の興味は若家老のほうへ行ってしまっている。そこへ鎧武者が出てくる。
鎧武者「これで、成仏できるな?」
殿「うーっ・・・くっ・・悔しいっ!!」
老家老はそうした一連の様子を見ていた。
「よし、私も先祖の助けを借りよう!」
家老、苦悩しているふりをして先祖を呼び出す。出てきたのは、どうみても悪魔っぽい。が、正真正銘、老家老の先祖。
老家老「姫の気をこっちへ向けるいいテはないか?」
悪魔っぽい「魔法で姫をぶさいくにする。若家老が逃げ出したら、お前が口説く。そして姫を元に戻す。」
「うまいっ!それだ!!」
薬を飲んでぶさいくになる姫。が、若家老は顔にはまるで頓着しない。姫を愛し続ける。
老家老は悪魔っぽい先祖に
「他にテはないか?」
と、相談する。そこへ、殿の霊がやってくる。殿も若家老と姫の仲を引き裂きたい。
悪魔っぽい「では、強く念じるのだ!」
三人が強く念じると、なんと老家老が若返ってしまう。
突然、老家老が若返ってやってきたのでビックリする姫。
「意外とイケメンねぇ。」
若老家老、得意になる。いきなり若家老に切りかかる。若家老、驚いて剣を抜く。若家老を翻弄する若老家老。
「はっははは・・・!」
若家老は悩んでいた。
「姫のことを愛してはいるが、国を治めるとなると責任が重し、私になど務まるのだろうか・・・?」
若老家老、城の侍たちの前で大見得を切っている。
「私が殿様になった暁には、税金を安くする。その分、金持ち証人から徴収する。役人の無駄遣いをやめさせ、天下りを撲滅する・・・」
やんやの喝采を浴びる。自信満々に姫に抱きつこうとする。姫、逃げる。若老家老それをみて
「(冷たくするのは気がある証拠よ。もう直ぐ姫は私のものだ。)」
と、ほくそ笑む。
若老家老が喝采を浴びるのを脇で見ていた若家老。ますます自信をなくす。
夜、どこかの料理屋。
若老家老が、若い侍たちと飲んでいる。女たちをはべらせて盛大にやっている。中に悪魔っぽいのもいるが、他のものには見えない。若老家老、若侍たちにもてはやされながら、調子のいい、上手い話をしている。
「縦割り行政を改めて、無駄な道路建設を止めれば、消費税はゼロになり・・・
若家老が仲間に誘われて、現れる。意気消沈している様子。そこへ鎧武者が現れる。
指をパチンとはじくと若老家老の本音が聞こえてくる。(他の若侍たちには聞こえない様子。)
「本当は自分が殿になったら、今まで以上に貧乏人からむしりとって、金持ち商人にゴマをすり、おいしいおこぼれに預かるのだ!そうだ、姫は隣の国へ人質としてやってしまおう。そうすれば、暫くは国は安泰。ワシの死んだ後のことなんか知らんわ。わはははっ・・・!」
若家老、怒りに体が震えてくる。飛び出す。
「おのれ!殿のかたきっ!」「何を証拠に。」「そ・その悪魔っぽいのが今・・・」「どこに居る?・・おい、何か見えるか?」若家老、気が狂った扱いされる。それを見ていた殿の亡霊、若家老に味方しようと飛び出す。
「おい、お前、よくも俺を殺してくれたな!」
若老家老、怯える。皆には悪魔っぽいのも殿の亡霊も見えない。
「こうなったら、戦いだ!!」
若老家老、剣を抜く、若家老も抜く。二人、切りあう。若老家老、断然強い。若家老をからかう。峰打ちで打たれる。二度も三度も打たれてもんどりうつ。殿の亡霊は、味方しようかどうしようかとモンモンとしている。若老家老「とどめだ。皆、これは決闘だから文句ないな!」と刀を反す。殿の亡霊、飛び出し、若老家老の手首にしがみつく。若老家老、「止めろ止めろ死にぞこないが!」と叫ぶ。皆は、若老家老が狂ったかと思う。それを見て若老家老は「今日のところは、勘弁してやるわ!」
と、帰っていく。
次の日、城内の自分の部屋で目を覚ます若家老。枕元に姫。見舞いに来ている。外で殿の亡霊が見ている。若家老「ま、負けてしまいました。」姫「・・・・」「あの、老家老は悪い奴です。あんな奴がいるなら、私が国を守ろうと思ったのですが・・・」「どうやって?」「もちろん、姫をめとって。」「まぁ、私がそんな簡単にプロポーズを受けると思ってるの?」若家老、考え込む。やがて「はい。若老家老を倒せば!」しっかりと姫を見つめる。姫、黙って立ち上がり、すまして表へ出る。殿の亡霊、姫に何か話しかけようとする。姫、殿を無視して嬉しそうに踊る。それから、隣の建物に入っていき、磁器の小瓶を手に戻る。小瓶を若家老に渡す。
「これは?」「さぁ、今朝、若老家老がくれたのよ。」「若老家老が・・・これは、もしや惚れ薬では?」「飲んでみる?」「そうしたら、私が若老家老に惚れることになってしまいます。」「これを若老家老に飲ませるのよ。」「え?」「あの人はもともと自惚れの強い人。きっと可笑しなことになるわ。」若家老「うむ・・・少し、卑怯な気もするが・・・」殿の亡霊が入ってくる「そうだ、そんなのは卑怯だ!!」若家老「いや、卑怯ではない。剣で勝てるワケがないのに剣にこだわるのがバカというものだ!!」若家老、立ち上がり
「おい、若老家老!いるか?もう一回勝負だ!!」
若老家老、子分を引き連れて現れる。隅に悪魔っぽいのもいる。
「お前から勝負と言うには、斬られても文句はないな。」
「もちろんだ。」
若老家老、更に声を出して人を集める。
「勝った方が姫を娶って新しい殿となる。」
皆、歓声を上げる。若老家老、にやっと笑い、自信満々、姫にウインクする。
若家老「さぁ、勝負だ!」
剣を抜く。
姫「やめて、死んじゃうわ!!」
あちこちが痛くて、まっすぐ構えられない。既に、肩で息をしている。
姫、小瓶を出して「これを飲んで、きっと元気が出るわ。」
若老家老「そ、それは?」
姫「あなたが今朝くれたジュースよ。元気が出るって。」
若老家老「やっ、それはイカン、それは、男が飲むものではないっ!!」
若家老「いかにも元気が出そうな色合いではないかっ!!」
飲もうとする。
若老家老「飲むなーッ!」
と、斬りかかる。勝負が始まる。若家老、防戦一方になる。
殿の亡霊、若家老が負けそうになるたびに「わーっ!」と叫ぶ。若老家老は驚いて手を止める。その隙にジュースを飲もうとする若家老。その度に激しく妨害する若老家老。が、とうとう若家老は追い詰められて、胸を斬られて倒れる。姫、駆け寄る。殿の亡霊も心配そうに見守る。
若家老「(呻く)私はもうだめだ・・し、死ぬ・・・せめて死ぬ前にジュースを・・・」
姫、若家老にジュースを飲ませようとする。
若老家老、大またに近寄ってジュースを奪いとる。
「誰がお前なんかに飲ませるものか!ほれ、飲みたいか?」
若老家老、ジュースを飲む。
「ほれ、ほれ、なくなるぞ。ほれ!」
と、全部飲んでしまう。
「グビッ・・グビッ・・グビグビ・・・・ん?」
若老家老、異様な気分にみまわれる。
「はて、なにか嬉しいような、恥ずかしいような・・」
突然苦しみだす。「うお・・・うおーっ!!」
若老家老、見る見る老けていく。苦しみながら元の老家老にもどる。いつの間にか、殿の亡霊の隣に鎧武者がいる。手に鏡を持っている。老家老、鏡を見る。
「おおっ!!なんと美しい。こんな美しい男がこの世にいていいのか?しかも良く見ればワシではないか!」老家老、鏡を手に小躍りする。鏡に頬ずりする。
「ワシ、ワシ、ワシーッ!!」
その様子を見て、皆、引く。
若家老「殿のかたきーっ!!」
が、ふらついてよろめく。
老家老、咄嗟に剣を振り上げる。若家老、危うし。その時。
殿の亡霊「えいっ!!」
気合を発すると、両手の先から稲妻が起こり、老家老を金縛りにする。
若家老の剣、老家老を突き刺す。
老家老「ああーっ!!」
倒れる。鏡が砕ける。老家老、死ぬ。場、シーンとなる。
その様子を息を呑んで見守る殿の亡霊。
侍A「お・・・お見事・・・。」
姫、若家老に駆け寄る。
若家老「大丈夫だ。」
立ち上がる。
「おーっ!」
と、歓声が上がる。
殿の亡霊、立ちつくす。
大賑わいの、ここは城下町。国中でお祝いしている。派手な音楽。
侍、町人ほか「殿様、万歳、万歳。」
馬に乗った、新しい殿の若家老と、姫。侍たちに囲まれて現れる。
舞台の隅いる、悪魔っぽいの、魔女、鎧武者、順に、舞台から消えていく。鏡を持った老家老の亡霊も。最後に残った殿の亡霊。
「これで、よかった・・・よかった・・・」
と、涙をぬぐう。殿の亡霊の体、空中に上がっていく。
「さようなら・・姫・・・さようなら、我が娘よ・・・さようなら、さようならーっ・・・!!」
殿の亡霊、舞台の上空に消える。
新しい殿に対する拍手喝采、一段と。
幕。