ゴルフ場
ゴルフ場お抱えの練習生とコースを回っている夏子(女子高生)。どんどん差をつけられていく。インターハイまで、あと十ヶ月。
オーナー室
オーナーと松田(32歳男性。美形)が、話している。・・・オーナーは、松田を、「やっぱり夏ッチャンの実力では、うちの練習生にはできないなぁ」と、冷たくあしらっている。
「夏ッチャンは美人だから、ゴルフのテスト受けるよりも、愛人のテスト受けたほうがいい。」とか、からかわれる。
松田も、夏子も、ここのオーナーとは知己である。大会社の社長だった夏子の父は公私共に、このゴルフ場を利用していた。
しかし、夏子の父亡き今、オーナーの態度は冷たかった。
オーナー「インターハイで優勝すれば、そういう話は、くるよ。夏ッチャンのルックスなら・・・お父さんには、世話になったことだし・・・口を利いてあげてもいい・・・ただし、優勝が条件だ。」 と、追い返される。
オーナーは、夏子が、どう頑張っても準優勝しか出来ないことを知っている。
”天才ゴルファー”とまで言われている海老原亜哉に勝てる高校生などいる筈ないからである。
フェリーヌ女学院高校
理事室に呼び出されている校長。
理事「なんで、何処の馬の骨とも知れない奴をコーチにしたんだ?」
校長「本校は、一流進学校であり、海老原亜矢の、予定進路は、本校には、ふさわしくなく、ゴルファーとしての彼女をつぶすべく最高の男を選出したのです。」
と、説明する。ゴルファーと言っても、亜矢にはプロに行く気が無く、どこかの会社のお抱えプロになるべく就職を考えている。
「わが校から、就職などありえない。」
と、納得する理事。
河川敷のゴルフコース。(フェリーヌ女学院が市と契約している専用コース。)
めいめい打ちっぱなしをしている。ゴルフ部員達が松田のうわさをしている。
「こんどのコーチ、かっこいいね。」
「亜矢の為だけに雇われたってかんじね。」
亜矢から2mほど離れて、じっと亜矢のショットを見詰めている松田。桁外れな飛距離が出ている。しかし松田の目は、亜矢の二の腕の十字型の傷跡に注がれている。亜矢の顔をじっと見つめる。
亜矢は、フィリピン人と日本人のハーフだ。松田の亜矢を見る目が、睨むような目に変わっている。松田 「よし、じゃ・・・フックを打ってみろ!」
亜矢は、フックやスライスなどのスピンボールが苦手だ。
亜矢 「私には、スピンは必要ありません。」
スピン無しでもインターハイで優勝できるし、自分は、大企業のお抱えプロになって、玉の輿に乗る予定だから、スピンなんか要らないと、あっけらかんとして言う。。
松田、切れる「そんな、生半可な気持ちでゴルフするな!」
亜矢「生半可な気持ちでも別にいいじゃん!」
と、軽く言う。
松田「なんだと・・」
暫し口論の後、
松田「・・・第一、お抱えプロは美人じゃなきゃ雇われない!お前の顔じゃ無理だ!」
と、言い放つ。
道
怒って部活を途中脱走してきた亜矢。・・・そういえば、自分も、もう三年になったし、オファーが来るのはいつごろだろう?・・・と、気になりだして、前のコーチに聞きに行く。
職員室
前のコーチが、亜矢の目の前で、協会に電話して聞いてみる。・・・と、そういう話は、既に、出るところへは、バンバン出ているとの返事だった。
コーチ「亜矢は、既にプロテストにも合格しているし、名簿にも載っているし・・・まぁ、お抱えプロっていうのは可愛い子から順番に売れていくそうだ・・・」
ショックを受ける亜矢。ガーン!!
亜矢「・・・私は、あんまり可愛くないばっかりに、お抱えプロには、なれないっ?!」
学校の前
亜矢「そりゃ・・私は、取り立てて可愛いというわけじゃないけど・・・」
帰宅部の妹が、声をかけてくる。かっこいい彼氏が一緒。クラスの男達が通りかかって驚く。
「亜矢は、ボインなだけだけど・・・亜矢の妹って可愛い!」
むっとする亜矢。亜矢は巨乳で、フィリピーナとのハーフなのでバンビーナと呼ばれている。
ぼろ車がやってきてとまる。松田の車だ。松田、ゴルフ雑誌を投げつける。
松田「プロになりたくても才能のない奴はいっぱいいる!半端にやるなら止めちまえ!」
・・・走り去る松田の車。。
亜矢の家(豪邸)。
家で、松田が投げつけた雑誌を読んでいる亜矢。夏子の記事がのっている
「愛人やりながらでもいいから、プロを目指したい」
と、書いてある。
とある場所で
校長と話している松田。
校長 「どうだ・・・海老原亜矢は・・ゴルフは諦めそうか・」
松田「昨日、だいぶ脅かしておきました。・・・今日から、いじめてみます。」
河川敷のコース。左曲がりのホール。
亜矢、決まり悪そうに練習している。やって来る松田。
松田「フックを打て!」
いやだという亜矢。松田、いきなり亜矢を殴る。無理やりやらせようとして怒鳴りあいになる。
松田「このホールで、フックが打てなくてどう勝つんだ?」
亜矢は、大して変わりはしないという。ゴルフは一打で勝負が決まるので、それは無理のある台詞だ。
松田「では、打ってみろ。」
という。
コーナーをストレートで二打に刻んで打つべく、いい所にショットを決める亜矢。
次に松田が打つ。・・・それが、見たことも無い物凄い切れ味の豪快なショット。見事に林を巻いていく。コーナーに沿ってグゥーッと曲がって更に、グングン伸びていく。・・・百ヤード以上の差がつく。
あまりの凄さに内心ぶったまげる亜矢。
亜矢「男だからね・・・」
とか言って、へらへら笑う。しかし、亜矢の松田を見る目は確かに変わる。
病院(今日は休診日)
亜矢の母親が院長を勤めるちょっとした病院の脇の豪邸が亜矢の家である。その、でっかい庭の練習場でスピンボールの練習をしている亜矢。
父親「お前がスピンの練習なんてどういう風の吹き回しだ?」
と冷やかす。
それで、松田の話になる。・・・父親は、松田を知っていた。
父親「十年ほど前、フックの天才と騒がれた高校生選手だったが・・・確か、事故が原因で引退したとか・・・?」
古いゴルフ雑誌を引っ張り出してくる。そこには、七年前の超かっこいい松田の写真と事故と、その後の松田に関する記事が載っている。
部屋の掃除をしている母親(フィリピン人)。普段は嫌がってみないのに、亜矢の学校のコーチと聞いて珍しくゴルフ雑誌を覗きに来る。
母親「・・・・アラ、その人、どこかで・・・」
校長と松田。
松田、亜矢の過去のスコアを見ている。天才的成績に目を見張る松田。
校長 「どうなんだ?」
松田「あんな、飲み込みの早い選手は、見たことも聞いたこともありません・・教えれば、なんでもマスターしてしまいます。」
松田の顔に悔しげな表情が見える。
校長「ところで、君の肩は・・・どうにも治らないのか?・・君も・・いや、君たちもつくづく運が無い・・・」
十年前、道に落とした人形を拾おうと飛び出した少女を事故から救った祭、松田は車にはねられて、肩に大怪我をした。・・・
回想シーン。
走り去っていく暴走車。踏み潰された人形。高校生の松田、肩を押さえている。少女の母親(フィリピン人)松田を一生懸命説得している。
少女の母親「(もちろん日本語で)私は医者です。是非うちで、治療させてください。」
松田、別にたいしたことはない・・・と、言い張る。
松田「それよりお子さんを見てあげてください。」
暴走車に引っ掛けられたのか、少女は二の腕に、大怪我をしていた。十字型の傷口から血が流れている。
松田の肩の怪我は、たいした事ないように見えた。しかし、実際には、神経を激しく損傷していたのだ。
回想シーン終わり。
校長、それに引き換え海老原亜矢は・・と語る。亜矢の母親は、フィリピン人で、苦学して医者になってボランティアで知り合った男と結婚した。母親は、今も医者として忙しく働き、父親は、寝て暮らしている。亜矢はそんな母親を馬鹿だといい、自分は父親のようになりたいと夢見ている。
あの時の少女が、亜矢だ!・・・と確信する松田。怒りと憎しみと後悔がこみ上げてくる。あの時、見殺しにしていれば・・・松田の脳裏に道に転がった人形が浮かぶ。少女に向かって突っ込んでくる暴走車。と、天才高校生現る!と印刷された松田の記事の載った新聞がオーバーラップする。
河川敷のコース。
亜矢にスピンを教えている松田。亜矢は、なんでもすぐにマスターしてしまう。調子に乗って才能をひけらかす。その才能を見ている松田の目が憎しみと嫉妬に燃えている。
亜矢「コーチのように大きく曲げたい!」
松田、それは無理だというが、実のところ、技術を盗まれたくないのだ。亜矢、意地悪く図星を突く。
松田 「海老原が、生半可な気持ちでゴルフをやるのじゃないのなら教えてやる。」
亜矢「じゃ、とりあえず、やる!」
その、あっけらかんとした軽い対応が頭に来る松田。亜矢に無理難題を押し付ける。
松田「よし、じゃ、裸になれ!」
亜矢「?」
松田「プレッシャーに打ち勝つ訓練だ。」
亜矢「はは・・」
松田「愛人やってでも、プロになりたい奴はいっぱい、いる。」
と、亜矢をにらみつける。 黙る亜矢、じっと松田を見る。松田、自分のクラブを亜矢に渡す。
亜矢「・・重い・・・」
松田「俺が、いいと言うまで、それで思いっきり左に、こじって打ち続けろ!」
ゴルフ部の打ちっぱなし練習場。
極端にフックしていく亜矢の打球。松田が来て、メチャメチャ重いクラブを渡す。「これで打て。俺がいいと言うまで休むな!」
亜矢 「生半可とか言ったんだから・・」
と言って、前のコーチの愛用の、もっと超重いクラブを持ってきて、松田コーチも、私と一緒にパフォーマンスして見せてくれという。断れない松田。亜矢、凄いピッチで打ち出す。肩が気になる松田。
亜矢 「コーチ、先にギブアップしたほうが相手の言うことを聞くことにしない?」
松田「・・いいだろう・・」
ピッチを落とさないで打ち続ける亜矢。しだいに汗が吹き出てくる。松田をチラッと見る。黙々と打つ松田。亜矢は、松田が、肩を痛めていることを知っていて、とばせば、きっと音をあげると考えていたのだ。・・・が、亜矢のほうが、先にバテて手を止める。
亜矢「コーチ、肩が悪いんだから、無理しないほうがいいんじゃない?・・・亜矢のほうが、身が入らないよ!」
と、言う。松田、内心切れそうになるが、グッと飲み込んで
松田「・・なんと言おうと、先に手を休めたお前の負けだ。」
夏子のおじさんの家
夏子が、一年間、練習生として、やっていけるように金を貸して欲しいと頼んでいる松田。もちろん金は、返すし、一年でダメなら諦めると土下座して頼む。夏子もその母親も土下座する。・・しかし、夏子にあまり才能がなさそうだと言って、むげに断られる。
道。
怒っている松田。
松田「なんて冷たい奴等なんだ。叔父さんじゃないかっ!」
と、自分のぼろ車を蹴飛ばす。
河川敷コース
初夏とはいえ、風が強くて、寒い。日も暮れてきた。
松田「よし、今日の練習は終わりだ。」
皆、寒い寒いといって駆け足で玉拾いにいく。亜矢も行こうとすると、
松田「お前は、パターの練習だ。上着を脱げ!」
折から小雨が降ってくる。泣きを入れる亜矢。
松田「負けたら言うこと聞くと言っただろう!なに甘えてるんだ!・・もっと寒い日のゲームだってある!
やせ我慢をする松田。ガタガタ震えながら、パターをする二人。
別の日。河川敷コース。林の中。
「俺のフックを盗みたいか?」と、松田。
松田「じゃ、ここから、力いっぱい打ってみろ!」
と言う。林の中は、玉が跳ね返るので、非常に危険だ。狭い、木と木の間を狙えと言う。しかもフックで打てと言う。そのくらいの気合じゃなきゃ俺のフックを習う資格はないと言う。
亜矢、少し力を抜いて打つ。玉は綺麗にフックしていく。
松田「こんどはあそこだ!」
と、もっと近くて狭いところを指差す。
亜矢、打つ。球はまたしても、木と木の真ん中を綺麗にフックして飛んでいく。それを憎憎し気に見つめる松田。あまりにも早い上達なのだ。
回想シーン
肩の故障を克服しようと努力している、高校生の松田。右肩が、痛くて上げられない。二十代の松田。特殊なホームで、右肩を上げている。フックの練習をしている。全然狙ったところへいかない。球を睨む松田。
回想シーン終わり。
松田「力いっぱいと言っただろう!」
亜矢、躊躇する。
松田「打つのか打たないのか!」
と、執拗に絡む。
亜矢「・・そんなの・・馬鹿じゃなきゃ出来ませんっ!」
松田、荒々しくボールを奪い取る。
松田「見てろ!」
怖がって小さく悲鳴を上げる亜矢。松田、思いっきり打ってしまう。危うく木をかすって飛んでいく球。
道。・・・日曜日の午後。インターハイまであと二ヶ月。
最高級型ベンツに乗っている亜矢と、運転している父親。最高級練習場へ行った帰り。
父親「そうか、随分きびしいなぁ・・・(笑いながら)・・まさか、松田コーチは、亜矢をつぶしに来たスパイだったりして・・・」
・・・と、前方に止まっている車に目を留める父親。松田のぼろ車だ。松田が、パンクしたタイヤを交換している。ベンツ、信号で止まる。松田が、やけに切羽詰った様子で、ボルトを締めているのが見える。それを見つめる、亜矢と父親。
亜矢「コーチ・・なんだか様子、変・・・」
松田の様子を見ている父親
父親「右手に力が入らないんだ・・・。」
亜矢「左手でやればいいのに・・・」
松田、額から冷や汗をいっぱい、かきながら、力の入らない右腕で、かたくなに、頑張っている。 信号が変わる。父親、車を走らせる。
亜矢「え、手伝ってあげないの?冷たいんだぁ・・。」
父親 「良く見ろ。」
亜矢、ブラックフィルム越しに松田を良く見る。松田は、スパナを握り締めながら悔し涙を流している。
河川敷のコース。雨の日。帰っていく部員達。大雨洪水警報がでている。インターハイまで、あと一ヶ月。
バンカーに球をどっと入れる松田。
松田「全部、ワンオンさせるんだ。」
亜矢に指示して、自分は、同じ数の球を持って隣のコースにバンカーに行こうとする。
亜矢「そんなの、インチキしてもわかんないじゃん。」
松田「黙ってやればいいんだ!」
と、亜矢をバンカーに突き落とす。半分赤土のむき出しになったバンカーの中で、泥まみれになって転がる亜矢。
松田「(怒鳴る)ワケないだろう!お前なら!!」
松田、隣のコースに行って一人で黙々とバンカーうちを始める。すぐに苦しそうな表情になってくる。打ち損ねる。
「くっ・・・」
肩を押さえる。肩が痛くて上手く打てなくなってくる。
「くそ!」
グリーンにすら乗らない。
亜矢の位置からは、松田の打つ球だけが見える。亜矢、松田のショットの乱れが気になる。
松田、タオルで、右手首をベルトに縛って左手一本で打っている。左手のグローブから血がにじんでいる。雨のせいで、砂が流れて、赤土がむき出しになってくる。松田の顔、赤土が跳ねて汚れてくる。
狂ったような松田の様子を林の陰から見ている亜矢。がんがん打ち続ける松田。・・・野獣のようだ。球は全く飛んでいかない。赤土だけが激しく跳ねている。ひん曲がったクラブを振り下ろし続ける松田。
と松田、突然打つのを止め、阿呆のように立ち尽くす。クラブが、ひん曲がってしまっている。・・・長いこと立ち尽くす。やがて、がっくり膝をつく。しばらくそのままの松田。やがて、ゆっくり立ち上がると、林のほうへ立ち去る。(亜矢の要るコースへの迂回路)
誰もいなくなったコース。亜矢、バンカーに何かあるのかと気になって見に行く。球は全部赤土にめり込んでいた。ややあって、亜矢、あわてて自分のコースに帰ると、グリーン上の球を、バンカーに戻しだす。亜矢は、とっくに全部の球をワンオンさせていたのだ。
林を抜けようとする松田。ギョッとする。
洪水が起こっていて、河川敷のコースは州となって取り残されている。
嵐
の中で、キャスターが、実況中継している。
河川敷のゴルフ場が、中州状態になっていて、今、岸から投げ込まれたロープが、上手く中州に流れ着いたところだ。ロープの強度からして、一人ずつしか渡れない。松田がその端を木に縛りつけた。松田、
亜矢に「お前からいくんだ。」
既に水は腰まで来ており、危険な状態だ。亜矢がロープに捕まろうとしたとき、岸から絶叫が聞こえる。
「松田さんから来てくださいっ!!」
それは、亜矢の母親だった。
母親「あなたは、腕が・・腕をいためていますっ!」
躊躇する松田。亜矢の父親も来ている。
父親「亜矢、耐えるんだ!松田さんっ!お前の命の恩人だぞ!」
亜矢「え?」
驚いて、松田を見つめる。岸で、亜矢の両親は、松田が、肩の神経を痛めていて、長時間運動に耐えられないことを説明している。レスキュウ隊員がメガホンで、松田から来るようにと指示する。亜矢「でも、わたし泳げない・・・」
松田、亜矢を無視してロープを掴むと、川を渡りだす。その間に水かさはどんどん上がる。中州に見えるのは、ロープを縛った木と亜矢だけだ。亜矢、流されそうになる。岸で、亜矢の両親が、泣き叫びながら亜矢を励ましている。松田、構わず進む。しかし、迷いが生ずる。松田は、まだ、半分まで進んでない。一、二歩進む。亜矢の捕まっている木が倒れだす。亜矢の両親は、ひたすら祈っている。松田、更に一歩進もうとする。と、その時、松田の目の前に、ズタぼろになった人形が流れてくる。食い入るように、人形を見つめる松田。突然引き返しだす。亜矢の捕まっている木がますます傾く。必死で引き返す松田。亜矢、水の流れに耐え切れなくなって、とうとう流される。
飛び込む松田。亜矢に追い付いて捕まえる。ワヤクチャに暴れる亜矢。・・・やがて、テトラポットにぶつかりそうになる。松田、体を入れて亜矢をかばう。松田の体が、テトラポットに激突する。血が吹き出る。亜矢、蒼白になる。亜矢をかばって、何度も何度もテトラポットにぶつかる松田。亜矢、必死で、松田の腕に捕まる。松田の右腕はすっかり力が抜けている。松田、なおもテトラポットにぶつかって気絶しかける。
亜矢 「(叫ぶ)コーチ!コーチ!・・・ごめんなさい!・・・コーチごめんなさい!」
・・・やがて、やっとのことで、岸にたどり着く。ゼーゼーうなる松田の血だらけの顔を覗き込む亜矢。松田、息が落ち着いてくると亜矢の腕から血が流れているのに気づく。手を伸ばす松田。亜矢 「たいしたことなさそう・・・」
松田、微笑む。「・・一応、診てもらうんだ・・大したことはなさそうだが・・・絶対に・・・診てもらっておくんだ!」
二人の顔を雨が激しく濡らしている。
ゴルフ場。インターハイ当日。
腕に痛々しいサポーターをしている亜矢。
松田 「フックは腕を痛めるから、この大会は、ストレートだけで行け、しかも3番アイアンまでは片腕で打て。」
と指示していた。
報道関係者が、松田を見つけて、やってくる。自分のことには、ノーコメントの松田。
松田「海老原亜矢には、自分の技術の全てを教えた。・・・彼女は、ほとんど片腕だけでそれをマスターしてしまった・・・。」
と答える。
夏子が姿を現す。夏子は、美人なので、注目が集まる。ジェラシーを感じる亜矢。報道関係者の話で、夏子が松田の、いとこだと知る亜矢。やはり、松田は、自分をつぶす気だったのではないか・・と、疑念がわいてくる。今日の亜矢の状態では、夏子は十分にライバルと言える。
ゲームが始まる。
亜矢は意地を張ってドライバーまで片腕で打つ。
やけに夏子の顔が広いのが気になる亜矢。大会関係者と挨拶をしている夏子。更に、夏子の保護者らしき女性と亜矢の学校の校長が、親しげに話しているのが目に入る。集中力をなくす亜矢。
X X
夏子の父親は、元、経済界の大物で、ゴルフ界での有名な人物だった。校長ともゴルフ仲間だった。亜矢をつぶして、夏子を優勝させる為に松田を雇ったのは校長である。
X X
物凄い集中力で、プレーを続ける夏子。元来、軽い気持ちでゴルフをしてきた亜矢には、何が夏子をこれほどまでに燃え上がらせるのか・・と感じられる。
昼休み。
夏子の親戚が現れる。ゲームがテレビ放映されていて、夏子が美人で意外と注目を集めている。亜矢と同じ組で、激しくデットヒートしている為だ。夏子が勝てば、雑誌や新聞にも大きく取り上げられるに違いない。プロになれば、大金が稼げるかもしれない・・そう考えて群がってきたのだ。今、夏子はトータルスコアでリードしている。
松田に、やっぱりスパイだったのか・・と、からみつく亜矢。答えない松田。
夏子と松田は異常に仲が良い。気になる亜矢。
再びゲームが始まる。
亜矢に追いつかれそうになる夏子。亜矢に、「負けてくれ。」と、真剣に頼む。自分は、なんとしても、この大会で優勝したいのだと言う。驚きに声も出ない亜矢。
放映陣の、すぐそばのコース
アナウンサーが夏子を紹介する声が亜矢たちにも聞こえてくる。それプラス持ち前の頭脳によって、夏子の境遇を知る亜矢。亜矢のショットを鋭く見つめる夏子。亜矢はわざとミスショットをする。
X X X
夏子の父親は、3年前に死に、今、夏子には借金しかない。松田の父親は、夏子の会社の専務だった。夏子の父の死後、会社が倒産して自殺した。幼い頃から、大富豪の令嬢としてちやほやされて来た夏子は、父親の死と会社の倒産で、世間の現実を知った。世間の冷たさを知った。彼女は世間を見返してやりたいのだ。幼い頃から 「お上手!」 と、おだてられたゴルフでプロになり、人々の注目を集めることが、自分を取り戻すことだ・・・と、夏子は考えている・・・。
X X
片腕のみでプレーしている亜矢の左手から血がにじんでくる。とても実力を出し切っているとはいえない。夏子は、自分の持てる力を全て出し切ってプレーしている。それでも互角である。少しくらい差をつけても、ちょっとしたミスで、亜矢はすぐに追いついてくる。
ゲームは最終ホールまでもつれ込む。
このホールは、左に大きくカーブしている。
角のところが林になっており、フックが打てるかどうかで差が出るホールだ。男子の外人選手ならワンオンさせられる。当然、夏子は、刻む作戦を取り、真っ直ぐ打つ。
亜矢の番だ。いつものように亜矢のショットをにらむように見守る夏子。
亜矢、片腕ポジションでボールの前に立つ。なにかしっくり来ない。
亜矢、サポーターを引っ剥がす。この試合、初めてクラブを両手で握る。松田のほうをチラッと見る。表情を変えない松田。
亜矢の怪我は、たいしたは事ない。松田は、どうして、ずっと片腕で練習を続けるように指示してきたのか?
亜矢の表情がはっきり変わる。
「・・・私は世の中をナメすぎていた・・・」
渾身の一打!・・・その球は綺麗に林を巻いて左にフックしていき、更にぐんぐん伸びてグリーンにワンオンする。ギャラリーから物凄い歓声が上がる。
優勝を決める亜矢。松田の所へ駆け寄る。
亜矢「やったー!!」
松田 「・・・」
亜矢、松田に飛びついて喜ぶ。記者達が亜矢を取り囲む。亜矢、これからも松田にコーチしてもらって一流プロを目指すのだ、と、はしゃぐ。
学校関係者たち「オオーッ!
校長、理事を見る。
理事「うむ。プロならば問題ない。」
負けた夏子のところへは誰も来ない。夕日をにらむ夏子。松田がやってきて、そっとその肩に手を置く。しかし夏子は絶望していない。その瞳には、夕日が、真っ赤に燃えている。
終わり。
